奇怪な業界にモノ申す、精神科医田中宗親のブログ

stat rosa pristina nomine, nomina nuda tenemus
過ぎにし薔薇はただ名前のみ、虚しきその名が今に残れり
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パニック障害なんて病気はない!?
パニック発作が起こる方はこの項を読まれて損はないはずです。治療や理解の一助となるかもしれません。ちょっと難しいですが御一読していただければ幸いです


パニック障害とは病名というより症状名
 
「パニック障害」という病名をお聞きになられたこともあろうかと思います。あるいはそう診断された方もおられるでしょう。無論ICD10やDSM4などの病名分類にもそれぞれ載っております。

 そもそもパニック障害とは簡単に言うと「なんらかの条件で突然動悸や過呼吸や過度の恐怖などのいわゆるパニック発作が起きる状態」です。

 が、「パニック障害」を「病名」として捉える事は大いに問題が含まれていると思います。

 
なぜならばパニック障害とは実際のところ「症状名」にしか過ぎないのですから。

 例えば風邪、いわゆる感染症に罹ったとします。そして咳が出たり体温が上昇したりする。

 さて、この場合「咳」は果たして病名でしょうか?
 
 いいえ、これは「症状名」です。

 風邪(気道感染症)が「原因」としてあり、その結果として咳という「症状」が起こる、ということです。



「原因」が有って「症状」が出る 

パニック障害も同じような図式です。何らかの「原因」があり、その結果脳神経にダメージが蓄積する。そして偏桃体を中心とした自律神経が失調を起こし、パニック発作が起きる。

 つまりパニック障害とはなんらかの「原因」で現れる「症状」です。そして肝心のその「原因」は統合失調症でも上司の長期にわたるパワハラでも離婚裁判でも超過労でもなんでもなり得るのです。

(私の治療メソッドは根本的原因を見つけて解決する、という極めて明確な指針に基づくものです。その結果私のパニック障害、強迫神経症の治療成功率は95%を上回る成績です。



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 病名と捉えると型に固定されてしまう

 ではなぜパニック障害を「病名」と捉えるとまずいのか。それは「病名」と捉えてしまったが故に『パニック障害という病気を治す』という型に思考が固定され易くなるのです。結果なかなか『パニック障害という症状の原因を考えて取り除く』という思考に至らなくなる、という事なのです。

 例えば「電車に乗ると動悸と過呼吸が起きるんです」と言われると精神科医は「パニック障害ですね」といい、大抵の先生方は「ガイドライン的」治療をします。

 根本的治療を考える医師ならSSRIを、対処療法だけで済まそうとする医師はベンゾジアゼピン系抗不安薬を出すでしょう。(ブログを読まれておられる方なら、本当に患者様の先々のことを考える良い医師は前者である、とお分かりになるでしょう。もちろん一時的に両者を出すという策は実に臨床的であり大いに有効です。)

 でも、それで思考が止まってしまう事が多い。「パニック障害」なんだからそれに効くと言われている治療をすれば問題ないだろう、と。エヴィデンスがある治療をしているんだ、と。それで完治すれば良いのですが、完治しなかったらどうなるか?治らないから延々と薬剤を飲み続けることになるのです。そんな患者様を嫌というほど診てきました。治らなくても「飲み続けるのが大事なのです。いつか治りますよ。」と言い続けるしかない。何故なら「パニック障害なんだからガイドラインに則った治療をするしかない」と思考が固定されてしまっているからです。

 「パニック障害」は症状、いわば結果に過ぎないのですから原因を突き止め加療しなければいけません。それが「不安」が睡眠障害の根本的原因だとしたらSSRIによって不安がなくなり、睡眠が改善して結果脳が治癒し完治に至るかもしれません。でもそれが不安などとは違う根本的原因だったら?どれだけ多くのSSRIを使っても、例えカリフォルニアロケットを使ってもいつまで経っても治りません。

 大切なことは「患者様を良く観察し常に考えを多岐に巡らして仮説を無数に持っていること」だと思います。逆に「なんでも型にあてはめて思考停止して患者様をろくに診ない。」のが良くない。患者様に質問用紙に記入をさせて、その結果だけで「あなたは〜点だから、うつ病ね。薬出しときます」みたいな医師が本当にいます。だから全く不出来な「病名」という「型」が嫌いなのです。
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 では私の経験した症例の中でこんな一例を。
 非常に示唆に富んだわかりやすい症例です。

 20歳前半の女性でした。「電車に乗ると動悸と過呼吸が起きてしまい、もう電車に乗れない。」という訴えでした。また電車で痴漢にあったこともあったとのことです。前医は「電車の中で痴漢にあったことが契機となりパニック障害となった。」と教科書的な判断をしました。そしてSSRIや抗不安薬を処方しておりましたが、多少は症状は改善したものの半年経っても大した成果は出ませんでした。カウンセリング(認知行動療法)も受け続けていましたが、明らかな改善は認めませんでした。「飲み続けたら良くなります」と言われて患者様は治療を続けられておりました。

 そしてたまたま診させていただくことになった私は問診から「予想通り。やはり例のごとく睡眠の質が悪い。」と思いました。休みの日は12時間以上寝てしまう、と。これは睡眠が随分と浅い。

 さて、その後の質問によって「レストレスレッグス」という病気(足が熱くなったりムズムズしたりする)と私は判断しました。そしてそれを治療開始した途端、電車に乗っても全く症状は現れず、平気で電車に乗れるようになってしまいました。それどころか以前とは較べるべくもなく、遥かに元気いっぱいで快活そのもの。「あれ、本当はこんな明るい子だったの」とビックリしました。そしてSSRIや抗不安薬を抜いても全然症状は顔を出さず・・・最後にはレストレスレッグスの治療薬すら無くなりました。これぞ究極の目標である「完治」です。良かった。万歳。

 その後は時折診療所に顔を見せに来るくらいで、再発の兆候は微塵も見えませんでした。

 この症例の問題は「実はレストレスレッグスによる睡眠障害による脳のダメージから精神状態が激烈に悪くなっていた」のが原因であって、「電車の中で痴漢にあった」ことは土俵際から突き落とす最後の一押し、最後の引き金にしか過ぎなかったのです。治療の結果、痴漢にあったことなど彼女にとってどうでもよくなってしまったのですから。

「パニック障害だ、痴漢にあったのだからそれが原因に違いない、では教科書どおりSSRIと認知行動療法だ」では一生かかっても治らなかったでしょう。

 珍しい症例だ、例外的だ、と思われます?

 類似した流れの症例は結構多いのです。




by doctor mental-ドクターメンタル 院長 田中宗親